Farm to Glass EXPERIENCE
マルシェに並ぶ「Farm to Glass Experience」の瓶入りジュースは、ブレンドしないことにこだわった、風味と個性の豊かなおいしさ。「農園からグラスへ」という名前の通り、ひとつの農園の果実だけでつくる、土の力みなぎるジュースです。
「あの農園を凝縮した一杯」というコンセプトを掲げる宇田川充さんは、農園限定の高品質なジュースをプロデュースしています。
発想のヒントは、ワインやお米にありました。お米にたとえるなら、ブレンド米と単一銘柄米の違いです。ブレンド米は複数の産地や品種、産年のお米を混ぜて、安定した品質と手頃な価格で販売されていますが、生産者が自ら単体で販売しているお米は他と混ぜることをしていません。
「こだわりと自信のあるお米農家さんは『うちの田んぼでこんなふうにつくった、うまいお米ですよ』と言って、よそのお米と混ぜずに売りますよね。それと同じことなんです。」と宇田川さん。
それをジュースに当てはめたのがFarm to Glass Experience。際立つおいしさは「一口飲んで頂ければ、納得頂けると思います。」と、宇田川さんの落ち着いた口調に熱がこもります。

原点には、宇田川さん自身の発見と感動がありました。
それは、10年ばかり前のこと。当時、宇田川さんは農地の土壌分析をおこなう事業に関わることになり、そのテクノロジーに大きな魅力と可能性を感じていました。
土壌分析には生物性、物理性、化学性など幾つかの方法がありますが、その事業は土の中に存在する目に見えない微生物の多様性とバランスを数値化するというものでした。
これは、目に見える生物性、物理性、化学性からの視点とともに土壌分析において、とても重要な要素の一つと言われています。ここで宇田川さんは、圃場の微生物にまで着目するこだわりの生産者たちとの接点が拡がっていきました。
「生物性が豊かな土でつくられた野菜や果物はおいしい。これをジュースという一次加工を経て、消費者に届けることはできないだろうかと考えたんです。」
農産物のおいしさをまるごと味わえる、添加物を使用しないシンプルなジュース。そこには農産物の品質の良し悪しがダイレクトに現れます。
ジュースの加工の現場を見ると、私たちはこれを飲んでいるのかと驚いてしまうような素材も持ち込まれているといいます。
おいしさには理由がある。宇田川さんはそう確信しています。
「おいしいものを作っている生産者は、『自分はこういう思いを抱き、こういう手法でこんな工夫をして栽培している』と、しっかり情報を開示してくれます。言いたがるんです(笑) そして『他と比べてみてください』と自身満々です。」
では、そういった生産者たちとはどのように出会ったのでしょうか?
しかし、コンセプトと協業の仕組みを理解してもらうのも、信頼を積み重ねていくのも、そう簡単にはいきません。
「一朝一夕に『じゃあいっしょにやろう』なんて、絶対に言ってもらえません。」
話し合いを重ねていくうちに約束が守られなくなったり、正しい食品表示ラベルの作成に難色を示したり。誠実であろうとする姿勢がお互いなければ、Farm to Glassは成立しないのです。
記念すべき最初の1本は、熊本県熊本市河内町の寺本果実園の温州みかんジュースでした。
みかんの名産地、熊本県熊本市の河内町は有明海から急峻な斜面にひろがる寺本果実園は、何代にもわたってみかん栽培を続けてきた生産者。30年以上前から特別栽培に取り組んでおり、環境保全型農業者として農林水産省の生産局長賞も受賞しています。

交流は、寺本果実園の土を測定したことから始まりました。
「寺本さんはもともと自分でも少しだけジュースを作っていて、それを飲ませてもらって驚きました。うまいじゃないか!って。これが、『おいしい農産物から美味しいジュースができる』と確信した瞬間でした。本人たちは毎日のようにそれを飲んだり、みかんの試食をしたりしているから、これが当たり前だったんですね。」
「このとびっきりのおいしさを、もっとたくさんの人に飲んでもらいましょう!」
根気よくお願いした結果、「そこまで言うならやってみたら?」という承諾を得て、Farm to Glass Experienceの最初のチャレンジがスタートしたのでした。
太陽をふんだんに浴びて育った寺本果実園の温州みかんを、そのままぎゅっと凝縮したジュース。グラスに注いで飲んでみると、まろやかな甘味と快い酸味が口いっぱいにひろがり、不思議なほど深い余韻が体に沁みていきます。
▲寺本果実園 寺本さん
まるでフルーツ! 驚きのにんじんジュース
次に実現したのが茨城県筑西市で有機栽培の野菜生産者「レインボーフューチャー」の冬にんじんのジュース。そして近年スタートしたのが千葉県八街市でにんじん専門の生産者、「vegewonder(ベジワンダー)」の春にんじんジュースです。
レインボーフューチャーの大和田さんが無施肥圃場で育てている寒締めフルーツにんじんは、フルーツを思わせる甘味と旨味をもっています。そのにんじんのすりおろし果肉を残して仕上げたジュースは、舌の上にとろりと甘くひろがり、トロピカルフルーツのような華やかな味わい。
にんじんってこんなに魅力的なものだったのか、と気づかせてくれるこのジュースは、筑西市のふるさと納税の返礼品に採用されたり、市内の道の駅やコンビニエンスストアで販売されたりと、大きな注目を集めています。
▲レインボーフューチャー 大和田さん
宇田川さんの信条は、少しでも生産者の負担を減らせるようにコーディネートして、自分の手間を惜しまないこと。手伝えることはすべて手伝い、納品には必ず立ち会っています。
「関係が育っていけば『これ、こうしてくれるとありがたい』というキャッチボールができるようになって、より円滑に協業ができるんです。」
▲ベジワンダー 小山さん
信頼で結ばれた3本のジュースの生産者について、こんなコメントを聞かせてくれました。
「寺本果実園の寺本さんは、以前は車のチューニングのショップを経営していた人。それをすぱっとやめて果実園を継いだんです。車のチューニングを極限までつきつめる性格が、みかん作りにもそのまま活かされています。
レインボーフューチャーの大和田さんは2000年に新規就農して、最初から有機栽培をしています。有機栽培のファーストランナー、第一世代ですね。もとはメーカーの経理畑にいたんですが、どういうわけか会社が農業をやるぞと言い出して、農業部門を一人で任されました。そのうちに自分でやったほうがいいと、退社して就農したんです。
ベジワンダーの小山さんは東京でSEをしていました。Uターンして千葉の実家で野菜作りをしているんですが、ご家族の病気療養をきっかけににんじんの魅力を知って、何種類ものにんじん栽培に力を入れています。それぞれのにんじんの食味をレ―ダーチャートにして研究するあたりに前職がうかがえますね。」
コミュニケーションの生まれるジュース
今後はりんごやトマト、ぶどう、ブルーベリーなどに挑戦してラインナップを充実させると共に、絞りたてのフレッシュジュースを提供する仕組みも検討中。旬の野菜や果物をその場で絞って飲むフレッシュジュースと、保存性の担保されたストレートジュースと、2本立ての展開を計画しています。
「コミュニケーションの生まれるジュースでありたい。」と宇田川さん。
農産物はその年の気候の影響を受けるので、年によって出来、不出来があります。
「前回買ってくれたお客さまに、『今年の糖度は去年よりも高いですよ、とか、低いですよ』と、顔を見ながら正直に伝えられることもマルシェのいいところですね。」
マルシェならその場で試飲して、年によって味が違うんだね、と言いあうこともできます。口に入る飲み物や食べ物は、共感が大切、と宇田川さんは言います。同じものを飲んで「おいしいね。」「私はこっちよりこっちが好き。」共感しあえること。コミュニケーションの根本がそこにあるのです。
インタビューの最後に、「在野の精神」と宇田川さんは思いがけない言葉を口にしました。
「たぶん、本来の意味とは違いますが、在野、つまり野にあるという言葉の強さがすごくいいなと思っていて。テクノロジーがいかに進化しようと、土、フィールドにしっかりと足をつけて頑張っていく。リアルというか、実(じつ)というか、そもそもの人の立ち位置はずっと変わらないのではないでしょうか。」
■販売商品■
旨果搾り(みかんジュース 600ml×6本)