木のうつわ 木の道具 そのべ

土曜、朝10時。オープン前にも関わらず、多くの人が足を留める。そんな名店がTERRACEマルシェにはあります。「木のうつわ 木の道具 そのべ」、薗部産業です。

優しい色味と丸みを帯びた木の食器が所せましと並べられていくさまは、まるでピクニックでランチをしているよう。今回は、そんな木製雑貨専門店の優しさにあふれた魅力をお届けします。

両親の背中を追う若手職人の兄弟

お話をうかがったのは、薗部産業の4代目、弘太郎さんと玄士朗さんのご兄弟。ものづくりと地元、小田原への愛を雄弁に語るウェブサイトから受ける印象とは一転、インタビューでは常に謙虚。自分語りが苦手なお二人は根っからの職人気質です。

木工の道を究めんとする両親の姿を見て育ったお二人ですが、同じ道を歩むと決めたタイミングは全く違いました。

兄の弘太郎さん、かつてはサラリーマンとして働いていたそうですが、自分自身が理解しきっていないものを売ることに疑問を感じ、「名前が残る仕事とは何か」を考え、幼いころから間近で見てきた両親と同じ道を選んだと笑顔を見せてくれました。

一方、弟の玄士朗さんが職人を志したのはなんと小学生のとき。給食で初めて金属のスプーンを使った際、使いごこちに違和感を覚え、両親が作る木の食器の良さを改めて実感したのだそう。以来、尊敬の念を持ちながら接してきた両親と同じ道を歩むのは、玄士朗さんにとっては自然な流れだったようです。 

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 おいしい・ばとん
時代に合った木と向き合い方、70年を超える薗部産業の歩み

薗部産業の始まりはおよそ70年前、お二人の曾祖父にあたる薗部さんが、木材を切り出し、職人に販売したことが起こり。高度経済成長期で建築の中心が木造から鉄骨へ移る中、販売から加工に徐々にシフトし、今のスタイルを築きました。

現在の社長(3代目)になると、高度経済成長期に毎月5万客あったサラダボールの注文が台湾などの安価な海外産に押され受注数が徐々に減少する中で、お盆やタンスなどが冠婚葬祭用ギフトとして注目を集め、また近年ではアメリカや韓国などの海外への輸出も増えてきたという事でした。

そんな薗部産業の特徴は、徹底した一貫生産。木材加工は分業されることが一般的ですが、薗部産業では材料の製材から商品化まで、すべてを自社で行います。一貫生産だからこそ、実験的な取り組みや柔軟な商品開発に挑戦できるとお二人は語ります。

普段使いがしやすい木食器はお客様の声から

木の器は、見た目はおしゃれで素敵だけどお手入れが大変でちょっと敷居が高い…そんなイメージを持つ方も少なくありませんが、ご安心ください。薗部産業の木食器は普段使いのしやすさも大きな特徴です。一見、加工されていないように見えますが、学校給食の器にも使用されるウレタン樹脂が表面に塗られています。こうすることで、水や食材が染み込むことがなく、食器用洗剤でも洗うこともできるようになるため、普段使いしやすい食器になるそうです。

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 洗う様子 おいしい・ばとん

一番人気の「銘木椀」もお客様の声から生まれた商品。日本人に馴染みの深い6種の木でできたお椀ですが、これは、「思春期の娘が、父親と同じ食器を使うことを嫌がる」という話を聞いたことをきっかけに生まれたというエピソードも。お箸と違い、個人持ちをすることが少ないお椀を一目で見分けられるよう、木目に特徴がある6種の木を使い、親しみやすくも見た目に特徴のあるものに仕上げたのです。さらに、小さなお子様を育てている方やご年配の方から「取っ手がついている方が使いやすいし、安心して食べられる」という声をたくさんもらい、試行錯誤の上でスープカップタイプも売り出しました。

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 グッドデザイン賞を受賞したおわん おいしい・ばとん

今は「切る食材によってまな板を分けたい」という声に応えるべく、木目で見分けがつくまな板の商品化に力を注いでいるそうです。間もなく完成ということですので、是非そちらも楽しみにしてくださいね。     

土地から力をもらい、地域を支える

薗部産業の工場から車を走らせると、北には金時山、西には箱根山、南には広大な相模湾が広がります。豊かな自然に育まれた木々こそが器たちの母であり、宝物。次世代にこの素晴らしさを伝えるため、地域貢献活動にも力を入れています。

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 近くの森の様子 おいしい・ばとん
例えば、1999年から小田原市の小学校に給食用のお椀を納品しているのですが、小学生向けにデザインしなおし、お椀の裏に原材料となるケヤキの文字を入れました。「座学ではなく、体験を通しての学びを。それが後世に伝える方法なんだと思う」と語ってくれました。玄士朗さんは、「小学生の頃は、自分の家で作った食器が給食に出てくると誇らしかった」と照れくさそうに笑っていました。
木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 小学校で使われるおわん おいしい・ばとん

木は自然の産物、加工を止めると状態が悪くなり、木材として使えなくなってしまうものも。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言で、百貨店など卸先の営業が止まってしまい、生産量のコントロールを考える必要が出てきた際も、決して生産を止めませんでした。木材ひいては自然との向き合い方を改めて考えさせられたと話してくれました。

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 材料の木材 おいしい・ばとん
伝統工芸の未来に向けて

伝統工芸の世界では誰もが悩む、技術の継承や後継ぎの問題。薗部産業では、若い職人の育成にも力を入れています。

今も20代から60代の職人9人が入り交じり、真摯にものづくりに取り組んでいます。若手とベテランが木材を囲んで語り合い、手を動かす。ごく自然な形で技術継承がなされているのです。幅広い技術が身に付く一貫生産の工場だからこそ、多くの働き手を惹きつけるのかもしれませんね。 

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 先輩に技術を学ぶ おいしい・ばとん

お二人は今、これまでの職人たちが苦手としていた、お客様とのコミュニケーションを積極的に取り組んでいます。マルシェへの参加もその一つ。同時にホームページの作成や、インスタグラムの更新にも力を入れています。

弘太郎さんは「今はいいものを作るだけでよかった時代ではなく、自分たちで発信し伝えていく時代。それを僕らの世代がやっていかなくちゃ」と話し、玄士朗さんは「形よりも思いが大事になってくる。それが商品に反映されていく。いいものをもっと発信できればと思う」と語ります。父親である3代目は、2人が新たな取り組みを行う際、「やることは構わないが、決めたんだったらやり通せ」と背中を押してくれるそうです。

令和元年に受賞した、GOOD DESIGN賞も、賞が欲しいというより、お客様に選んでいただき、贈る側ももらう側も良いものだとわかるようにしたいという思いから、エントリーを決めたんだとか。お客様あってこそのものづくり、声や反応を直接見聞きするようになってから、職人たちの意欲も向上し、工場全体の活性化につながっているのです。

木のうつわ 木の道具 そのべ 薗部産業 仁取皿 おいしい・ばとん

 木材加工業が盛んな小田原周辺だと創業100年を超える老舗は沢山あるそう。

「自分たちが後30年頑張って、ようやく100年企業という看板を背負える。まだまだこれからやりたいこと、できることはたくさんあると思う。」そう語るお2人が作る商品、是非<特別な日>にでなく<普段使い>にしてもらいたいと思います。

 

■販売商品■

木の食器セット

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栗のマグボウルのペアセット

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天丸お箸のペアセット

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