大森農園
「大森農園」のお米と野菜は、栃木県那須烏山市の多様性に富んだ自然の中で栽培されています。その田畑がある風景は、意外にも“山林の中“。田んぼと聞いて私たちがぱっと思い浮かべるような広大な平野ではありません。
「山林の木々は春に葉っぱをつけ、秋には紅葉し、冬に落葉して発酵し、それを肥料としてまた成長していきます。その自然の循環にちょっと割り込ませてもらっているんです。」
大森農園を営む大森悦郎さんは、ウグイスの鳴き声が響く中でそう語ります。
「エーゲ海は、なぜ透き通るほど青いのか?
それは、魚を養う栄養分が陸地の森から供給されないからです。人間が燃料を確保するため森林を根こそぎ破壊したためです。石油に依存する化学肥料、農薬、除草剤を使いすぎると土が劣化してしまう。健康な「土」は健康な植物を育てる。農家なら誰でも知っている基本的なことが忘れられてしまった部分もある思います。今となっては、私の田んぼは贅沢なのかもしれないです。」

▲山林の中の田んぼ
「ただし、たくさんは採れない。収穫量と食味は反比例するからね。大量生産すると、おいしくないものができる。土地に負担をかけない程度の収穫量を守ることが大事なんだと思います。」
ゆえに農家として目指すのは、単位面積あたりの収穫量を最大化することではなく、純利益の最大化なのだそう。
「目標は先人たちが鍬一本で開拓した田畑を次世代に渡すために、農業でも食っていけるスキームを確立することです。」
スキーム? これまでの農家の方々の口からは出てこなかった言葉ですが、じつは大森さん、農業を始める前は栃木県の地方銀行で活躍する銀行員でした。父親の他界をきっかけに兼業農家となり、やがて専業農家へ。時を同じくして浄土真宗のお寺で得度したというユニークな経歴の持ち主なのです。
経済と農業と仏教。一見、相反するような世界観が大森さんの中で融合し、日々の仕事に見事に活かされています。その秘密を教えていただきました。
「うちはもともと農家の血筋です。江戸時代初期に前田家の加賀藩から、浄土宗の勧めで、ここ下野国(栃木県)烏山藩に移住してきた120名ほどの開拓農民の一人でした。」
今年61歳になる大森さんは、歯切れのいい口調で語ります。
「鍬一本でもって開墾して、まじめな働き者なら10年で家が建つと言われたようです。調べてみたら、うちの初代の惣右衛門は東京ドーム10個分くらいの土地を手に入れたらしい。まじめだったんだね(笑)」
しかし、若き日の大森さんは農業に関心がなく、大学卒業後は地元の銀行に入社。外為システム開発と法人インターネットバンキングの立ち上げに携わってきました。
「銀行員の基礎知識として財務・法務・税務・金融経済などを叩き込まれたことは、現在も大きく役立っています。農業でも決算書を作り、弱点を探り、シミュレーションして利益を確保することの繰り返しです。」
銀行勤務のかたわら農業を始めたのは平成8年のこと。父親が急死して田畑を受け継ぐことになったのです。
「当時は副業禁止だったけど、『これは副業ではない、家業だ』と言って認めてもらいました(笑)」

▲除草作業中の大森さん
農作業は週末しかできないので大がかりな設備投資をおこない、最初の年はJAの指定に沿った慣行農法でスタート。たとえ未経験者でも、いつ、何回肥料を与えるのか、決められた通りに進めていけば栽培はそう難しいことではない、と大森さん。
現在のような地元の自然の豊かさを活かす栽培方法にたどりついたのは、次の年から「田畑を5つの区画に分け、すべて異なる5通りの方法で栽培する実験を5年間続けて、25通りのやりかたを試してみた」後の選択でした。兼業農家だったからこそ、本業で培ったシステマティックな手法を活用した実験が可能だったのでしょう。
平成24年、大森さんは銀行を早期退職して専業農家へ転身。同時に、得度して在家僧侶の資格も得ました。父の急死を通して人の命に限りがあることを痛感したのだといいます。
「愛する人の死は、他人の死とは違う……好きだったドラマにそういう言葉があってね。『北の国から』です。得度のための厳しい修行? 浄土真宗には修行はないんですよ。」
お釈迦さまの教えの基本は「因果の道理」。どんな結果にも必ず原因があると説かれています。
「野菜と米の栽培は、まさに因果の道理。『因』となる種をまき、『縁』として快適な自然環境を与えれば、その結『果』、おいしいものができます。」

▲僧侶姿の大森さん
その考えは、大森さんが座右の銘として挙げたスティーブ・ジョブズの言葉「よく見ると、一夜にして起こった成功の多くには長い時間が費やされているものだ」にも通じているようです。種をまき、育ててきた長い時間がなければ、豊かな実りも存在しないのですから。
大量生産しない野菜や米を、どこで売れば人に喜ばれ、純利益の最大化につながるか? 地元の直売所に出したこともありましたが、生産者にとっては必ずしもいいことばかりではないそう。
「旬になるとみんな直売所に持ってくるので山のように積まれて、場所取りでケンカになることもあるし(笑)、価格競争にまきこまれてしまうんですよ。」

そもそも地元の人々には農薬不使用栽培という言葉があまり響かない、と大森さん。
「健康意識の高い東京のマルシェでは、私にとっては、農薬不使用はあたりまえのスタートラインだと思っています。出店場所周辺の自然食品店の価格を調べて、それよりもお求めやすい価格に設定しています。」
はじめて会うお客さまを相手に、自分で生産したものを自分で値段をつけて売ることの面白さも感じているそう。「あんた栃木から来てるの?」と、声をかけてきた同郷の人に購入していただいたこともある、そんな出会いが楽しみなのだといいます。
「山林の中に田畑がある風景は、おそらく数百年前に惣右衛門たちが開墾した時代からほとんど何も変わっていません。この環境を壊さずに、次の世代に渡したい。」
苦しい時期にはやるべきことを確実にやるだけ、冬になったらあったかくして春を待つんですと語る大森さんの姿は、農家と言われても、銀行員、あるいは僧侶と言われても、なるほどと納得してしまうような佇まいでした。
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